個展プランをつくる 7: 《Assemblage in Resin》

アッサンブラージュの「可能世界」

アッサンブラージュとは「世界」を「可能世界」と捉えた上で<再構築>するための技法である。

「宇宙」と「世界」

「宇宙」は言葉を語る以前に、既に「無秩序」で「無限」なものとして存在している。その散逸した宇宙をそのままダイレクトに脳にインプットし、生活というアウトプットを行うなんてことは我々の「有限」な脳には不可能な芸当だ。たとえ薬を使用したり瞑想を駆使したりして、処理能力を一時的、もしくは恒常的に拡張できたとしても、我々の脳の処理能力には限度がある。よって我々はそんな<無秩序>で<無限>な「宇宙」に<秩序>と<有限>を導入し、それを「世界」と呼ぶことで何とか生きながらえている。しかしこのままでは話が抽象的過ぎて分かりにくいので、その「世界」の縮小版として例えば「都市」について考えてみよう。「都市」とは人間の脳の認知空間の表象だ。その「構造」、「機能」、「ルール」は建築物、道路、標識といった具体的な物質や情報的なスクリーンを通して具現化している。信号機の点滅、エスカレーターの速度、排水性のアスファルトなどは全て何かしらの「構造」、「機能」、「ルール」に従って構築される。その結果として都市空間のUX/UIが限りなく進化することで、人間は無意識的に知覚されたアフォーダンスの恩恵を受けることになる。つまり「都市」は人間の脳にとって快適であるように、「宇宙」という<無秩序> + <無限>を改変した結果出現した<秩序> + <有限>な「世界」の一部であると言える。

アッサンブラージュ

宇宙 (無秩序、無限) → 世界 (秩序、有限) → アッサンブラージュ (可能世界、秩序、有限)

しかしそんな世界に対する「可能世界」(反実仮想、事実の反対)を考えてみる。<無秩序>と<無限>を<秩序>と<有限>に変換する際に重要なのは、先程も挙げた「構造」、「機能」、「ルール」の三つの要素だ。そして「可能世界」を考える際には一度その世界の「構造」、「機能」、「ルール」を全て解体した後に、<再構築>することが必要になる。つまりアッサンブラージュで使用する素材は一旦その「構造」、「機能」、「ルール」の全てを放棄することになる。そして一度「世界」から切り離されてバラバラになったその素材を、もう一度別の「構造」、「機能」、「ルール」の元に構築し直す。もちろんそれは現実の「世界」に対して有効に機能するか否かは問題ではなく、ありえたかもしれない別の「可能世界」としての可能性を提示すれば良い。そのようにして<再構築>されてできあがった作品が一見<無秩序>に見えることもあるだろうが、それらの素材の選別という過程を経ている以上、そこには何かしらの<秩序>が生じているはずだ。このようにアッサンブラージュとは世界を「可能世界」によって<再構築>するための技法なのである。

「引きこもり」な人々

ところでアッサンブラージュの先駆者かつ代表的な作家としてはジョゼフ・コーネルが挙げられる。彼のアッサンブラージュの箱の作品は素晴らしいものだが、そこにはやはり「世界」を<再構築>して箱の中に閉じ込めておきたいという欲望が感じられる。一方でズジスワフ・ベクシンスキーは個人的なフェティシズムを極限まで探究した画家と言える。彼の作品は日常的な世界を徹底的に遮断した上で閉じている。ここでジョゼフ・コーネルとズジスワフ・ベクシンスキーの共通点を挙げるとするならば、彼らは2人共「引きこもり」な生活を送っていたことだ。開くこと、接続することを過剰に求めてくる「世界」に対して、彼らの在り方と作品はそこから一定の距離感を保ち、閉じること、切断することの意味を問いかけてくる。閉じなければ見えないものがあり、切断することで見えてくるものがある。自分の制作にもこのような「引きこもり」の美学という原点があるが、世界に対して適応できないまま開くことで、もう一度閉じることに対する可能性を探究したいのかもしれない。万能感の病理とその破綻によって<再構築>された「世界」は、もう一度尽きないフェティシズムによって結晶化する。

アッサンブラージュのアップデート

ではここで現代的なアッサンブラージュのアップデートについて少し考えてみたい。最初に断っておくとこれは今回の作品とは無関係であり、断片的なアイディアの羅列になるだろう。まず最初に思い付くのは、アッサンブラージュのボトムアップ的な手法は、情報技術とも相性が良いということだ。インターネットのシステムや一時期流行した創発の概念はボトムアップを主軸として考えている。さらにアナログなものを前提としていたアッサンブラージュに対し、インターネットを通過し、それ以降のXR (VR、AR、MR)、3Dプリンター、仮想通貨、ダークウェブ、バイオ技術などを応用した可能世界の<再構築>には何か可能性がありそうにも感じる。もしくは宗教儀式、ファッション、分子ガストロノミーなどもテーマとしては面白そうだ。この辺りの素材をまず、ボトムアップ的に手探りで光を照射することによって、何かしらの輪郭が見えてくる可能性はある。

《Assemblage in Resin》

今回の作品である《Assemblage in Resin》に関しては、自分の身近な範囲で手に入る素材、もしくは購入できる素材に限って使用した。この作品を作る上で最も難しかったポイントは、枠組みが一番大きいので、今までで一番多くのレジンを一度に使用したこと。これを失敗すると標本箱とレジンの再購入をする金銭的、時間的余裕がなかったので、今回は完全なる一発勝負だった。一番心配だったのが素材として木片を使用したのだが、木片の中には水分もしくは空気が入っている可能性があり、今までの経験上その場合は熱で暴発し全てが気泡に包まれて失敗してしまう可能性があった。なのでそれ以外は使用する素材を無機質なものに限定しており、木片の配置に関しても暴発したとしても大丈夫であろう場所を狙って配置した。また他のスペースや裏側にレジンが漏れ出さないようにテープで固定してからレジンを注ぎ込んだ。結果として暴発は起こったが、その規模と気泡の発生の仕方はある程度自分の望み通りだった。またレジンは最後まで固まり、漏れもほぼ防ぐことに成功した。当初の予定では全面をレジンで覆い隠すようにしようか迷ったが、この作品に至るまでに様々な失敗をして残りレジンが少なかったことと、素材が半分程度露出していた方が見栄えが良い気もしたのでその可能性に賭けた。この《Assemblage in Resin》が完成した時点で、ひとまとまりの作品としてもようやく完成。全体を通して慣れない素材を使用しての制作だったが、何とか完成して良かった。

個展プランをつくる: 連載記事リンク

個展プランをつくる 1: 《Chain in Resin》

個展プランをつくる 2: 《QR Code in Resin》

個展プランをつくる 3: 《Magnets and Ironsand in Resin》

個展プランをつくる 4: 《Flower on Starfish》

個展プランをつくる 5: 《Blood and Needle in a Small Bottle Surrounded by Screws》

個展プランをつくる 6: 《Fragments of a CD in a Small Bottle and Seaweed in a Light Bulb Surrounded by Dry Flowers》

個展プランをつくる 7: 《Assemblage in Resin》

個展プランをつくる 8: 《A Specimen Box as a Self-Portrait》