個展プランをつくる 3: 《Magnets and Ironsand in Resin》

制作と批評

『石版を丸呑みする回転木馬』

サドとマゾのための磁石

この詩は以前発表した『石版を丸呑みする回転木馬』という詩とリトグラフの大喜利アートブックに収録した一編の詩である。これは説明するまでもなく「磁石におけるS極とN極が引かれ合う性質をサド(S)とマゾ(M)の惹かれ合う性質」に重ね合わせて接続したものだ。またこれは今更説明するまでもないことかもしれないが、そのような批評的な説明が先にあってこの詩が生まれたわけではなく、何も考えずに生まれてしまった詩を解説するためにどのように言語化すればスッキリするのかと考えた結果、このような解説が生まれたという順序になる。よって自分としては制作した差異には無意味/無自覚であったものが、事後的に意味/自覚を獲得した順序になっており、そこには自分としても新鮮な驚きと発見がある。

制作と批評

ぐちゃぐちゃドロドロふわふわとしたカオス(混沌)を幾何学的な構造で構築するオーダー(秩序)があったとして、それを見た人が秩序を〈安全地帯〉として求めるのだとしても、最終的には混沌に帰還していくような嘘と真実が重なり合った〈虚実皮膜〉がそこにはある。

これは制作と批評を両方同時に行っている人間にしか分からないことかもしれないが、制作と批評は単純な両輪ではない。批評のロジックを単純に制作に適用した場合に悲惨な結果を招くことはあり、その逆もまた然りなのである。批評の前に制作がなければならないという順序は経験上正しい感覚が強いが、制作に対して言語化を上手く行えたとしても実際の作品が良くならないケースはあるし、作品に凄みがあっても言語化が全く追いつかないというケースはある。もちろん制作に必要な才能と批評に必要な才能は根本的に異なっているという事実もあるが、制作と批評にはそれだけではないもう少し捻った関係性が存在しており、それが一体何なのかは未だに謎に満ちた領域である。

磁石/砂鉄/磁性流体

磁石には惹かれる。

その理由が今まで良く分からなかったが、最近思い当たったのはアートや批評には磁石のような性質があるということだ。現実の世界を一旦切断し、異質なもの同士を再度接続する。アートや批評にはそのような性質があるが、これは磁石における反発と引き合う性質と重なり合っている。さらに磁石は磁場を発生させる物質として極めて科学的な物質でもある。自然界における四つの力は、重力、電磁気力、弱い力、強い力であるが、中でも電磁力は重力と共に日常的な身体感覚として体感しやすい力でもある。超伝導の実験は見ているだけで楽しいし、海で砂鉄を採取するのもハマるし、磁性流体のスパイク現象はとにかく格好良い。そのような思い入れから磁石/砂鉄/磁性流体を使用した作品は今までも作ってきたが、このような科学的な物質を使用しつつ、最終的には科学的な枠組みをアートや批評で乗り越えるような作品に辿り着きたいのかもしれない。たとえそれがオカルトやポエムと呼ばれようとも。

《Magnets and Ironsand in Resin》

《Magnets and Ironsand in Resin》では、第1層に磁石、第2層に砂鉄、第3層に磁石を配置し、レジン + 硬化剤 + 硬化促進剤を混ぜ合わせた液体を計4回流し込んだ。流し込む回数が増えると一度ミスしただけでやり直しになるので難易度が一気に上がるのだが、この場合も何度かやり直して何とか完成させた。この作品のチャームポイントは、一番上の層の硬化具合の妙でぼかし効果が出たことと、レジンを乾燥させる時に底にくっついてしまった広告の断片。単純に磁石にサンドイッチにされた砂鉄がどのような形態を取るのかには興味があったが、それに関しては反応しているかしていないのか微妙な範囲に留まった。というよりレジンで硬化しているので、砂鉄が変形することが難しいということだったのかもしれない。「動きの一瞬を永遠に止めておきたい」という欲望は写真的な美の探求と重なり合うところがあるのかもしれないが、自分としては最終的なアウトプットは2次元よりも多次元に展開していたいというフェティシズムがある。Dustin Yellinは主に健康上の理由でレジンのレイヤーからガラスのレイヤーへと制作の形態を移行したが、個人的にはあくまで絵画的な重層性とは別の重層性を探求したい。換気しつつのマスクとゴーグルと手袋をもってしても防げないレジンの有毒ガスに頭をクラクラさせながら、そんなことを思ったり思わなかったりしていた。

個展プランをつくる: 連載記事リンク

個展プランをつくる 1: 《Chain in Resin》

個展プランをつくる 2: 《QR Code in Resin》

個展プランをつくる 3: 《Magnets and Ironsand in Resin》

個展プランをつくる 4: 《Flower on Starfish》

個展プランをつくる 5: 《Blood and Needle in a Small Bottle Surrounded by Screws》

個展プランをつくる 6: 《Fragments of a CD in a Small Bottle and Seaweed in a Light Bulb Surrounded by Dry Flowers》

個展プランをつくる 7: 《Assemblage in Resin》

個展プランをつくる 8: 《A Specimen Box as a Self-Portrait》