「ニューロホップ – NEURO HOP」展: 「#鳩羽つぐをさがすオフ」について

西荻窪の引力

西荻窪は謎の引力を持つ。数年前「億光年のドライヴ」というグループ展に参加したのだが、その際の会場が西荻窪にあるURESICAだった。奇妙なことに、というより自分以外の人にとっては奇妙でも何でもないことなのだが、「ニューロホップ – NEURO HOP」展が開催されていた中央本線画廊はその西荻窪にあった。駅からの方角も同じであり、実際の距離も近い。さらに奇妙なことに、中央本線画廊はタバコ屋を改装してできた場所だという。以前「石版を丸呑みする回転木馬」という展覧会を開催したダイナミックサイクルもまた、タバコ屋を改装してできたものだ。そして西荻窪はVTuberの鳩羽つぐが住んでいる場所であるとされている。この奇妙な巡り合わせは何らかの力によって引き起こされたのかもしれないし、何の意味もないのかもしれない。ただ今ふと思い出したのだが、西荻窪にはそのような不思議な力を持っていそうなどんぐり舎というカフェがある。マスターも味があるので、行ったことのない人は是非訪れてみてほしい。

「#鳩羽つぐをさがすオフ」について

さて今回取り上げるのは、「ニューロホップ – NEURO HOP」展で観た「#鳩羽つぐをさがすオフ」という作品について。これは新芸術校出身の小林太陽とcottolinkによる映像インスタレーション作品で、一番興味を惹かれた作品でもある。鳩羽つぐについて簡単に説明すると、西荻窪に在住しているとされるVTuberであり、中性的な雰囲気を纏った少女。動画を観ても謎が多い存在であり、都市伝説や犯罪の匂いが漂う内容になっていることからインターネットを中心に様々な考察が生まれている。映像作品ではその鳩羽つぐをモチーフとしており、西荻窪周辺を歩き回りつつ、鳩羽つぐの痕跡や気配を探し求めていく。以前参加したフォーラム(1)「生きものの気配:芸術とロボットの領域」では、人間以外の存在の気配について語られていたが、今回はキャラ/VTuberの気配を探し求めるようなゲーム性の高い内容になっており、特に映像の終わり方は良いと思った。

現代美術の速報性と後追いの構造について

まず現代美術の速報性と後追いの構造について。鳩羽つぐ、VTuberというモチーフを現代美術で取り上げるのは、反応速度としては早いはず。ただVTuber界隈の多様化と流れが早過ぎて、それと比較してしまうと今この話題を取り上げるのが早いのか遅いのかも既に良く分からない。もちろん早い、遅いは評価基準としてはどちらが良いというものではないが、モチーフの変化が早い場合は反応速度は重要になってくる。またYouTuberやゲーム実況者などがコンテンツや商品を消費するタイプのクリエイターであるとするならば、鳩羽つぐは純粋にコンテンツを作り出しているように思える。しかしそこで鳩羽つぐを「さがす」のであれば、構造的には後追いの消費するタイプのクリエイターとどうしても被ってしまい、鳩羽つぐというコンテンツを消費しているようにも見えてしまう。そこの動詞の変更には可能性がありそうで、こういった作品によって逆に鳩羽つぐの今後の映像内容に影響を及ぼしてしまうような作品が提示できれば強い

ホモセクシュアルとホモソーシャルについて

またこれは勘違いかもしれないのだが、作品の説明を聞いていて、ホモセクシュアルとホモソーシャルという単語が出てきたのだけれど、その辺りの概念が多少混同されているように感じた。ホモセクシュアルは性的指向のことで、ホモソーシャルは社会的な関係性のことを指す。ホモソーシャルはむしろホモフォビアと結び付き易い概念で、これらの立場は対立することが多い。ホモソーシャル的に振る舞いながら実態はホモセクシュアルであるということも良く見られる現象なので、そこも含めて一筋縄ではいかない。ただ仮に作品として結び付けるならそこはもう少し掘り下げるか、テーマとの結び付きがないならばっさり切り捨てるかどちらかにした方が良さそう。男性2人の生活空間と切り離せない作品になっていたので、緩い繋がりはある気がするのだけれど、本格的には切り込んでいない感じがした。

中央本線画廊という場

「ニューロホップ – NEURO HOP」展では他にも興味深い作品が沢山あり、解説なども丁寧にしていただいたし、新芸術校生が数多く出展していたのも刺激になった。また以前批評再生塾の募集が再開したら申し込むと宣言しており、躁鬱状態の躁状態に入っていたこともあり、先日勢いで申し込んでしまったのだが、それを記念してTMTMTRさんにビールを奢ってもらった。中央本線画廊という場自体が面白いので、行ったことのない人は是非行ってみると良いと思う。西荻窪周辺も探索してみると面白い場所が沢山あるはずだし、URESICAも良い場所だ。自分としては空き家プロジェクトがストップしてしばらくが経過するけど、いつか自分のコレクティブのためのアトリエ兼ギャラリーを持ちたいと改めて思った。