サイトブロッキング問題について整理してみた

音楽業界と漫画、動画業界

反復の構造

最近話題になっているサイトブロッキング問題については幾つかの文脈が複雑に入り乱れているので一見分かり辛いが、極めて単純に整理してしまえば音楽業界が辿ってきた道を漫画業界や動画業界が改めて辿っているという状況であり、同じような問題が反復して起こっているということになる。つまり音 (聴覚) と光 (視覚) という違いはあるものの、それらをデジタル化されたデータとして捉えれば同様であり、それらのコンテンツをどう扱い、販売するべきかという問題だ。音楽においてはCD販売からMP3やAACなどの圧縮ファイルによって海賊版が流行すると共に、ダウンロード販売が隆盛し、後にサブスクリプションモデルに移行して現在に至る。その流れを漫画に当てはめると、書籍販売からZipやRARファイルなどの圧縮ファイルによって海賊版が流行すると共に、電子書籍販売が隆盛し、現在はサブスクリプションモデルが待たれているが決定的なサービスが登場しないため、「漫画村」が流行したということになるだろう。同様の流れを動画業界に当てはめると、DVDやブルーレイ販売からMP4やAVIなどの圧縮ファイルによって海賊版が流行すると共に、ダウンロード販売が隆盛し、後にサブスクリプションモデルが登場したものの、「Anitube」、「MioMio」などが流行したということになる。

サブスクリプションモデル

こういった海賊版サイトが流行している状況に対して対症療法的に対処する方法として、サイトブロッキングが考案されたという流れになる。その是非に関しては一旦脇に置くとして、人間は一度得た利便性から後戻りすることはできないと考えると、一度は無料で漫画や動画を体験することができた経験を持つ人間が「漫画村」、「Anitube」、「MioMio」などのサイトが閉鎖したからといって今後漫画や動画を購入するようになるかどうかは疑わしい。よって漫画や動画を購入する方向へ誘導するよりは、サブスクリプションモデルで海賊版サイトと似たような利便性を確保した上で、収益化できるようなサービスの登場が待たれる。サブスクリプションモデルに関しては作者への還元率が度々問題になるように、プラットフォームとコンテンツ提供者の力関係の問題が常に付きまとう印象があり、採算が取れるかという問題もあるが、現実的に考えて他の方法が思い付かない以上そこに真剣に取り組んでいくしかないだろう。

サイトブロッキングに関する四つの問題

単純に表層に見えている部分だけを整理すれば上記のような結論になるが、先程言及した通り、サイトブロッキング問題に関しては幾つかの文脈が複雑に入り乱れている。それらを整理すると大別して技術的、効力的な問題、代替案の問題、法律的な問題、政治的な問題の四つの問題に集約される。

技術的、効力的な問題

まず第一に技術的、効力的な問題が挙げられる。今回のサイトブロッキングで使用されるのはDNSブロッキングという方法だ。ブロッキングには大別すればフィルタリングとブロッキングが存在し、前者は事前にユーザーの同意を得る、後者は事前にユーザーの同意を得ないという違いがある。このサイトブロッキングにはISPの協力が不可欠であり、幾つか穴はあるものの、技術的には実現可能な方法である。しかしたとえ技術的にはサイトブロッキングが可能だとして、この方法では無関係なサイトが遮断されるオーバーブロッキングと関係あるサイトが遮断されないアンダーブロッキングの問題が必ず付きまとう。つまりサイトブロッキングに関するリストは半永久的に更新され続けなければならないが、そのコストは誰が支払い、その妥当性はどのように判断するのかが不明瞭である。またそこまでのコストをかけてサイトブロッキングをしたとして、現在抜け道の存在しないサイトブロッキングの方法は確立されておらず、最終的にはいたちごっこの徒労に終わる可能性がある。例えばDNSブロッキングに対してはIPアドレス直打ちで回避する方法(1)DNSブロッキングは筋が悪いのか?やパブリックDNSサービスなどを使用することで回避できる(2)海賊版サイトのブロッキングは“抜け穴“だらけ 実効性に疑問の声 (2/3)。そう考えるとサイトブロッキングが最良の方法かは疑問の余地が残る。

代替案の問題

またサイトブロッキングに対する有力な代替案としては広告収入源を絶つということが考えられる。これは要するに海賊版サイトに共犯的に協力する広告代理店や広告主に対する法律的な規制を作ることで、海賊版サイトが金銭的に儲からないようにするということだ。これに関しては相手が海外のアドネットワークを使用していたり、モラルが欠如している場合は従わない、また収入源を気にしない場合は効力を持たないという川上量生による指摘は正しい。(3)ブロッキングについてただ彼も認めているように、それらの状況に当てはまらない場合は一定の効力は見込めるはずなので、今回の件に限らず広告収入源を絶つという方向性での立法化は進めていくべきだろう。他にも「DMCA」を活用した方法なども考えられるが、確実にいたちごっこになることと、そもそも「DMCA」は原理的に悪用を防ぐことが難しいという意味で代替案としては弱い。

法律的な問題

さらにサイトブロッキングは法律的には確実に問題を抱えている。その問題の中心にあるのが「通信の秘密」についてだ。そもそもサイトブロッキングをするべき理由は海賊版サイトによる著作権侵害にあるわけだが、サイトブロッキングという手段を講じることにより、通信、検閲、表現に関する憲法や法律を侵害する可能性がある。この問題に関しては主に日本国憲法第21条2項と電気通信事業法第4条1項に書かれており、オーバーブロッキングに対して違法阻却事由である正当行為、正当防衛、緊急避難が適用されるかどうかが争点になる。(4)ブロッキングの法律問題そもそも海外という日本の憲法、法律の効力が及ばない範囲にある海賊版サイトに対しては超法規的措置によって対処するしかないという主張は一定の説得力を持つ。しかし法律は前例に縛られるし、一度前例ができあがってしまえばそれが乱用されるリスクがある。もちろんサイトブロッキングが現状の法律上問題ないと解釈する立場もあるが、これに関しては今後も議論が続くはずの論題であり、超法規的措置はできるだけ作らない方が良いというのは確かなことだろう。

政治的な問題

そして先日NTTが海賊版3サイトに対してサイトブロッキングを実施する旨を発表した。(5)インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施についてここで既に閉鎖され、機能停止している海賊版3サイトに対してサイトブロッキングをする合理的な理由は何なのだろうか?これはあくまで推測の話になるが、NTTが今回の決断をするのに至った理由としてはドワンゴとの関わりが大きいと見られ、そうだとすれば業界の面子を立てるという意味が考えられる。もう一つの理由としては見せしめとしてサイトブロッキングの前例を作ることで、これ以上の海賊版サイトの拡大を防ぐためと、今後登場する海賊版サイトや現在存在している海賊版サイトに対する牽制の意味合いがあると考えられる。これらに関する是非は置いておいたとしても、この政治的な問題が法律的な問題よりも優先して考えられた結果がNTTの発表に繋がったと考えるのが妥当だろう。

今回の記事のまとめ

今回の記事を書いてみて思ったが、サイトブロッキング問題は体罰問題と似ている面があると感じた。体罰は法律で禁止されており、倫理的に考えても禁止されることは妥当である。一方で教師は体罰を禁止されていることで不良生徒に舐められ、モラルに訴えかけても指導が行き届かない現状もある。要するにサイトブロッキング肯定派は体罰肯定派と立場が類似しており、教師を舐める不良生徒が海賊版サイトの運営者という構図になる。また体罰以外の方法での解決を探る立場が広告収入源を絶つなどの立場になるだろう。今回の件ではどうせ何をしても手出しはできないと高を括っていた不良生徒が、法律の壁を超えて教師がガチで殴りにきたことにビビり、一目散に逃げていったという流れになった。そういう意味ではサイトブロッキングをするという発表自体には一定の効果があったのだろう。しかしだからといって体罰を肯定すべきかどうかは別の問題だし、乱用すべき方法でないことは確かであり、今後も有効な方法であるとも限らない。これを別の観点から大雑把に言えば、手続き論と内容論の対立の問題だと言い換えることができる。また今回の件に関しては作品を制作する立場、消費する立場、プラットフォームを作る立場、それぞれの立場から考えさせられたことが多い。その中で正当な対価が正当な場所へ流れる、そのたった一つのことを実現することが何故こんなにも難しいことなのかを考えた際に、貨幣経済やインターネットという仕組み自体が根本的にそれに向いていないんじゃないかという仮説に想いを巡らせながら、今回の記事を締めたいと思う。