「通訳案内士」と「TELP」

今回の記事では最近2020年東京オリンピックに伴う需要増加によって法改正が話題の「通訳案内士」と、その規制緩和の波に乗ろうとしている「TELP」というサービスについてまとめてみる。記事の最後では多言語話者についてテクノロジーの発展と脳科学的な側面から捉えた際の意味合いを手短にまとめているので、興味のある方はそちらも読んでみてほしい。

「通訳案内士」とは

「通訳案内士」は国家資格の一種で、「通訳案内士試験」の筆記試験と口述試験を通過した人に与えられる資格になる。簡単に言えば「通訳」 + 「観光ガイド」のプロということになる。この試験は難易度が高く、合格率は例年20%前後になっている。この資格は弁護士などの資格と同様に業務独占資格なので、この資格を持っていない人が有料で「通訳案内士」の業務内容に携わることはできない。

「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律」

しかし実態に沿っていないとされる試験内容と、2020年東京オリンピックに対応するには需要と供給が合わないということで、試験制度を含めて大幅に法律が見直されることになった。それが「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律」であり、今年の8月18日に既に公布済み、来年の1月4日から施行となる。

詳細は観光庁の以下の二つのリンクを読めば分かる。

「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律案」を閣議決定

「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」、「通訳案内士法第三十八条第一項の期間を定める政令」及び「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令」を閣議決定 ~地方誘客促進のための受入環境の充実と旅行の更なる安全確保を目指します!~

法律の要点と重要な変更点

上記のリンクから要点を抜粋して確認すると、以下の2点が重要な変更点になる。

1. 「業務独占から名称独占」になる。
2. 「試験科目に実務項目を追加」し、「定期的な研修の受講を義務付け」る。

1はつまり「通訳案内士」でなくても「通訳案内士」の業務内容を行うことができるようになるということ。2は試験がより実務を反映するものになり、資格を一度取得したら終わりという性質のものではなくなるということだ。簡単に言えば需要の増加に伴って規制緩和をしつつ、資格としてはより質の向上を目指すということになる。

「TELP」とは

この「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律」における規制緩和を見越して、「TELP」というサービスが本日リリースされた。「TELP」では2カ国語以上話せる人が「TELPER」として登録し、言語の壁によって意思疎通に困っている2人を手助けするという仲介サービスになる。現在はβ版なので語学レベルは問わず全てが無料のサービスになっているが、規制緩和後は有料プランなども考えているようだ。ビジネスモデルとしては簡単に言えば通訳における「Uber」、もしくは「Airbnb」のようなものだと思えば分かり易い。「TELP」が今後「Uber」、「Airbnb」並に発展するかは分からないけれど、類似サービスや他の分野でもこのような流れはどんどん出てくるはずだ。ちなみに既にお試しとしてアプリには登録してみたので、実際に使用したらまたブログに報告するかもしれない。

多言語話者: テクノロジーの発展と脳機能の非局在性

個人的にはフリーランスとして翻訳業務に携わっているのと、以前から同時通訳に興味があり、近いうちに通訳も仕事としてやってみたいので「通訳案内士」と「TELP」には興味を持っている。翻訳と通訳に関しては最終的には大部分がAIに代替されるし、外国語を学ぶ重要性は減ると思っているのだけれど、多言語を扱うというのは自分の中に違う人格が存在する脳構造を持つということでもあり、代替の問題や不必要性とは違う興味がある。ある言語を学ぶということは、同時にその言語に内在する文化や思考形態をもインストールすることと同じであり、これは単純にテクノロジーで解決できる問題ではない。

また脳機能局在論に基づいた脳機能マッピングは、過去にfMRIという手法を使用してある程度の成果を上げた。しかし実際の脳機能は非局在的な部分も多く、どの部位がどの機能に対応しているのかという物理と情報を一対一対応させる手法には限界がある。実際に右脳、左脳という脳の局在性と機能の関係は科学的には無根拠であることが証明されているし、何かしらの脳の部位や機能の欠落がある特定の機能の異常発達を示す例が見られることも脳機能の非局在性を示していると言える。つまりこれは例えば将来的に電脳によって言語をインストールすることができるようになったとしても、物理的な脳が全て代替されていない限りにおいて多言語話者とはその意味合いが異なることの根拠にもなり得る。このように考えるとたとえAIによって将来的に翻訳と通訳の仕事が全て代替されたとしても、外国語を学ぶ必要がなくなったとしても、多言語話者になる意味は完全には失われないのだろう。