「ボラバイト」と「リゾートバイト」の闇: 「リゾートバイト編」

「ボラバイト」から「リゾートバイト」へ

「ボラバイト」と「リゾートバイト」の闇についての連載記事として後編になる今回は、前編の「ボラバイト編」に引き続き「リゾートバイト編」について書き、最後にまとめてみようと思う。そもそも「ボラバイト」も「リゾートバイト」もアメリカ留学中に日本に一時帰国した際、短期間である程度まとめて働ける場所ということで申し込んだ側面があった。時系列的には「ボラバイト」に行く前に「リゾートバイト」も申し込んでいた。実際には「ボラバイト」終了後、多少の休憩期間を挟んで「リゾートバイト」に行くことになるのだが、「ボラバイト」中は一切インターネットが使用できない環境下にいたため、家に帰宅した際に「リゾートバイト」に関する連絡事項が溜まっていた記憶がある。「ボラバイト」先ではアメリカにいた時と同じくシャワーしかなかったので、風呂などの生活を含め一度全てをリセットした後に「リゾートバイト」に臨むことになった。

「リゾートバイト」の闇

「リゾートバイト」とは

「リゾートバイト」とは基本的に「リゾート施設」で住み込みで働く仕事のことを指す。「ボラバイト」とは違い、給料に関しては労働基準法に抵触するような労働条件ではないはずであり、そこには文明社会が存在している。ただ「リゾート」という甘い言葉に乗せられて遊び半分のつもりで申し込むと、その期待は大幅に裏切られる可能性は高い。注意してほしいのはあくまで働く場所が「リゾート施設」であるということであって、働く内容と「リゾート」という言葉には余り関連性がない場合が多いということだ。そうはいっても休憩時間や休日に「リゾート施設」という環境を堪能できるのではと思うかもしれないが、多くの場合過酷な労働で疲れ切っているので、その「リゾート施設」の環境を楽しむ余裕があるかは別の話。「ボラバイト編」の記事でも述べたように、「リゾートバイト」では「リゾート」という言葉を上手く利用し、「やりがい搾取」に結びつけるという意図が感じられる。

現地に到着

「リゾートバイト」の現地に向かうには新幹線を利用し、最寄りの駅からは送迎バスで送られて現地に着いた。仕事場はホテルだったのだが、宿泊客と同じバスに乗り、アルバイトの人は最後に降りるように指示されていたように記憶している。現地到着後はまず他のアルバイトの人と合流し、施設の説明と仕事の簡単な説明の後に、早速仕事に入ることになる。ちなみに敷地が広大で、食事は従業員専用の食堂、就寝場所は寮なのだが、食堂と寮がかなり離れており、1km以上 (往復2km以上) 毎回歩くことになる。ホテルと食堂は近いのだが、仕事はシフトに入る時間よりも大分早めに準備して寮から出発しないと間に合わないし、仕事でいくら疲れていても寮まで歩かないと休めないということだ。ちなみにホテル以外の従業員やアルバイト用の施設はかなりボロボロであり、「リゾート施設」の表の華やかなイメージとはかなりかけ離れたものだった。

「リゾートバイト」の仕事
洋食レストランへの配属

今回の仕事はホテルのバイキングに関する仕事だった。その施設には幾つかのレストランがあり、最初に配属された場所は洋食レストランだった。そこでは「ホール」の仕事になるのだが、基本的にはここの「ホール」の重要な仕事は2つで、一つ目は客の座席への案内とバイキングシステムの説明をすること。二つ目は食事が済んだ食器類を素早く厨房に片付けること。他の仕事としてはテーブルや座席の直し、子供用の座席のセッティング、食器類の仕分け、ゴミ拾い、テーブル拭きなどの仕事があり、臨時の特別な仕事や、レストラン始業前の準備、終業後のゴミ捨てや食器類の拭きと片付けなどの仕事もあったのだが、重要なのは主に先程挙げた2つの仕事になる。また「ホール」は人数が多いので、それぞれの連絡は「インカム」を使ってなされ、特定の仕事をした際には必ず報告することが必要になる。例えば座席にはエリア名と番号が付いているのだが、客を案内した際はそのエリア名と番号を報告することになっていた。

初仕事スタート

一番最初は1人の先輩に付いて客の案内の仕方と説明の仕方を覚えることから始まった。今日はしばらくこの人の動きと説明を見ながら仕事をするのだろうと思っていたが、客の案内を一度見せられた後に「〜さん独立しました〜!」と高らかに自分の名前が宣言され、何故かいきなり独立することになった。その人は「何かあったらインカムで呼んでね」という言葉だけを残し、いきなり客という荒波の中に解き放たれることになった。正直「独立してねぇよ」と思ったが、仕方ないので見よう見まねで客を次々に座席に案内し、説明をしていく。恐らく客はそんなど素人が案内と説明をしているなどとは露程も思っていなかったことだろう。バイキング会場は広く、宿泊客も人数が多いので、絶え間なく仕事が降り注ぎ続ける。「インカム」の音声は聞き取りづらく、正直何を言っているのか良く分からないが、こちらの声は聞こえているようだ。「インカム」を使いこなせるかどうかはかなり重要な要素らしく、「インカム」で報告をしない人間は仕事ができないという印象を持たれるようだった。

「モンスターカスタマー」登場

個人的には「お客様は神様」と店側が言う分には良いが、客が言い出したら「神」の部分を「何」に変える権利が店側にあると思う。確かに何でもかんでも「モンスター〜」と言うのは良くないのかもしれないが、例に漏れず「モンスターカスタマー」というのはどこにでもいるもので。例えばある客を座席に案内した際に、案内したテーブルとは違うテーブルが良いと主張してくる夫婦がいた。違うテーブルが良いという場合は要望を聞いて可能なら変更もするのだが、その時は座席がかなり混雑しており、その客が指定したテーブルは既に他の客が使用している最中のものであった。その旨を丁寧に説明したのだが、その客は「こっちだって同じ料金を支払っているのに、何故他の客の方が優遇されているんだ!けしからん!」と激怒したので、すぐさまマネージャーを「インカム」で呼び出し、対応してもらった。これに関しては他の客が優遇されているというより、単純に順番の問題であって、そこまで座席にこだわるのなら早めに来れば良いだけのことなのだけれど。

この手の客は一度怒りの沸点に到達した場合、説得を試みるより偉いと思われる立場の人間を投入した方が早い。そのまま説得を続けると客の立場を悪用した感情的なマウンティングが始まる可能性があるからだ。そういえば成田空港付近のホテルのレストランで、扇子を仰ぎながら従業員に対して怒鳴り散らしていた男がいたが、中途半端な社長やちょっとした有名人などの半径5メートルの範囲内でだけ偉いと崇められている人間にこういう勘違いした人間が多い気がする。社長だろうが有名人だろうが、公共の場では他と何も変わらない一人の人間に過ぎない。自分の影響力の及ばない範囲で他人に優遇されるのが当たり前と思っている人間は単純にみっともないし、たとえ本当に知名度のある人間であってもそういう態度は自らの品位を落とし、最終的には何かしらのスキャンダルで沈んでいく。

ある社員の呪縛

数日もするとすっかり仕事にも慣れ、新しく入ってくる新人アルバイトの人間を指導する立場になった。さすがに一度仕事を見せただけで「独立」させることはなく、彼らには実際に何度もやらせた上で「独立」させたので何て恵まれた人たちなんだとは思ったが。しかしそんな折、その現場を仕切る社員と思われる人間に何故か目を付けられる。特に何をしたというわけではないのだが、支離滅裂な命令を出され、その支離滅裂な命令に従った結果の失敗を押しつけられるという悪循環が始まる。実際には目を付けられたというよりは、単純に自分が仕事ができないことすら気付けない人だったのかもしれない。何故かというとその人は社員の中では最も仕事ができないという噂が広まっていた人物で、彼のミスに対してはマネージャークラスの人間も頭を抱えていたからだ。その呪縛に対するストレスが頂点に到達しようとしていたとき、救いの手が差し伸べられる。高級フレンチレストランへの移動を命じられたのだ。

高級フレンチレストランへの配属

高級フレンチレストランでは「ホール」のやり方は大分変わったが、現場を仕切る人間を含めて少数精鋭部隊という感じだったのでストレスを感じる機会は少なくなった。そしてその仕事にも慣れてきた頃、今度は同じレストランの「フード」という仕事に役割が変更になる。この仕事は料理の配置を覚え、基本的にはある特定の料理が常に途切れないように、事前に「調理」の人たちと連携を取り合いながら補充していく仕事になる。この仕事は基本1人であり、仕事がない時は「ホール」や「洗い場」を手伝うこともある。「ホール」の人間はコミュニケーション能力が高く、「調理」の人間は職人気質で、「洗い場」の人間はガテン系という感じだったが、「フード」の人間はそれらの人間との仲介をしていく必要がある。社員の中には料理の配置に詳しくない人もいるので、料理の配置換えなどの際には社員の人に説明することも必要になってくる。ご飯のよそい方など盲点になっていた部分も知ることができたし、余った高級料理をもらえたり、音楽家の演奏を聴くこともできた部分は良かった。

仕事を終えて

仕事を終えてみての感想は、基本的に「リゾートバイト」は「リゾート施設」という監獄に閉じ込められた奴隷労働ということだった。「リゾート施設」は遊びに行く場所であって、働きに行く場所ではない。実際に休みの時間がほとんどなかったので遊びにはいけなかったし、特典で施設利用の割引などもあったのだけれどそれを利用しているアルバイトの人も極少数だったように記憶している。食堂は仕事の都合だったとしても1分でも時間に遅れると食事は出してくれないし、愛想も良いとは言えず、過去に何かしらのトラブルを起こした社員の謝罪文みたいなものも張り出されていて気持ちの良い環境ではなかった。そもそも人間の生産性を最大限上げた上で搾取したいのであればGoogleのように家より快適と思えるような職場環境を作るべきであって、罰則ベースの結界を張ることは「割れ窓理論」で言う「割れ窓」を自ら増やしているようにも思える。

寮の暮らしについてはラッキーな部分があり、4人部屋だったのだが大半の期間を1人か2人で過ごした。「リゾートバイト」が他のバイトと違う点は隔離された環境にあるために安易に逃げられない点であり、友達と連絡を取って車を呼び、夜中に逃げ出した人もいるという話も聞いた。期間中なのに途中で急にいなくなる人がいたり、最初に申告していた期間より遙かに短い期間で辞めていく人もいた。「リゾートバイト」で一緒に来ていた人は「あと〜日でここから脱出できる」というような脱獄までの日程を数えるのが日課になっており、数週間いただけでもこの労働環境がかなり過酷なものであることが分かる。といっても事前に「ボラバイト」を経験していた身からすれば接客業なので精神的にはきつい面もあったが、肉体的には割と大丈夫だった。「調理」の人と仲良くなり、彼にはさっさとこの地獄から抜け出せよと言われたが、地獄を分かった上で体験しに来る酔狂な人間は余りいないのだろう。

「ボラバイト」と「リゾートバイト」まとめ

今回は連載記事として「ボラバイト」と「リゾートバイト」の闇を「ボラバイト編」、「リゾートバイト編」に分けて書いてみたがいかがだっただろうか。最初に書いた通り、「ボラバイト」も「リゾートバイト」も「やりがい搾取」の問題があると述べたが、そういった経験を面白いと思えるのは自分の中にアーティストとしての別の「ゴール」が設定されているからだ。「リゾートバイト」に関しては「ボラバイト」とは違い、期間を短めに設定して何も期待せずに行くなら普通の人が行っても特に問題はないかもしれない。他の類似した仕事としては「治験」に関しても何度か申し込んだことがあるが、実際にそれを体験したことはない。ただ死者が出てマスメディアで色々話題になった薬ですとか、今回は抗がん剤になりますが適量の数倍の量を投与していきますとか言われた後に、退院した後にするスポーツについての心配事を質問する「治験協力者」たちもかなりの猛者であり、「治験」の闇もかなり深そうだ。自分の中では「人体実験」という言葉が一つのキーワードになってきている気がしていて、そういった壮絶な経験を経た末に得られた理論や作品には説得力が宿るはずだとも思う。そういった意味でこの「無限の遊び」にはアーティストとして内因性に基づいたモチベーションがあり、お金とは無関係に自分の中で切っても切り離せないものになっているのかもしれない。

「ボラバイト」と「リゾートバイト」の闇: 連載記事リンク

「ボラバイト」と「リゾートバイト」の闇: 「ボラバイト編」

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