仮想通貨バブルとフィンテックバブル 前編: ビットコインとブロックチェーンの仕組み

前回までの連載記事ではVALUについて様々な角度から検証してみたが、今回はそれに関連する記事として仮想通貨とフィンテックというさらに大きな枠組みから語ってみたい。記事は前編、中編、後編の三つに分け、前編は「ビットコインとブロックチェーンの仕組み」、中編は「仮想通貨バブル」、後編は「フィンテックバブル」に関する記事になる。これから金融リテラシーのない人が「VALU」などを介してビットコインに代表される仮想通貨の市場、または「ツケ払い」、「CASH」、「Payday」などのフィンテックサービスに参入することによって本格化するであろう仮想通貨バブル、フィンテックバブルの波に飲み込まれていくことが予想される。それらのバブルが本格的に起こる前に、基礎知識を学び、仕組みを理解してもらった上で警鐘を鳴らしておきたいというのが主な執筆動機になる。

まず前提知識として仮想通貨、フィンテックのどちらとも関係の深い「ビットコインとブロックチェーンの仕組み」を説明する。ビットコインを支える根幹技術は「ブロックチェーン」と呼ばれ、これは全取引履歴のデータを記録した分散型台帳技術のことだ。これを分かり易く比喩的に説明するなら、「ブロックチェーン」のブロックは中にデータを入れられる箱であり、その箱の中には取引履歴のデータが幾つも収納されているとイメージしてほしい。この誰が誰に幾らビットコインを送金したという取引履歴がビットコインの本体であり、一つのブロック = 箱に入るデータ量は限られているため、幾つものブロックがチェーンで繋がれていることからこの技術は「ブロックチェーン」と呼ばれている。ちなみに2009年1月3日にビットコイン提唱者であるSatoshi Nakamotoによって作成された最初のブロックはGenesis blockと呼ばれ、そのブロックに連なるように幾つものブロックがチェーンで繋がっていることになる。これらの仕組みから考えると、ビットコインの実態はコインではなく、台帳そのものであることが分かる。

ビットコインは暗号通貨とも呼ばれるが、「ブロックチェーン」の基礎を支える技術はその暗号技術と分散型技術である。暗号技術に関しては、秘密鍵、公開鍵、ビットコインアドレスの三つが重要になる。これらに関しては銀行口座で喩えるならば、秘密鍵 = 暗証番号、公開鍵/ビットコインアドレス = 口座番号のようなものであり、全て数字と記号の組み合わせで生成されている。秘密鍵と公開鍵はペアであり、この暗号方式を公開鍵暗号と言う。公開鍵とビットコインアドレスが両方存在する理由としては、より短い数字と記号で表現するため、もしくは一つの公開鍵に対してビットコインアドレスを幾つでも生成することが可能なので、取引の度にビットコインアドレスを変えることでよりセキュリティが高まるなどの理由が考えられる。口座番号は個人情報と紐づけられているが、ビットコインは疑似匿名性がある。例えばビットコインではウォレットを使用してこれらの情報を管理するが、そのウォレットは個人情報とは結びついておらず、送金における個人の特定はほぼ不可能になっている。また秘密鍵に関してはビットコインの所有権を示す唯一の証拠であり、セキュリティホールになり得る。そのためペーパーウォレットなどのアナログな方法を使用して他人に知られない、盗まれないようにするのが一番安全な方法と言われている。

秘密鍵、公開鍵、ビットコインアドレスは実際には以下の順番で生成されることになる。

秘密鍵 → 公開鍵 → ビットコインアドレス

これらの → では一方向性関数と呼ばれる関数を通して変換されることになる。この関数は順方向に変換することは容易だが、逆戻りして復元することは非常に困難であり、喩えて言うならば一方通行の道路のようなものである。つまり秘密鍵から公開鍵、もしくは公開鍵からビットコインアドレスを生成することは容易だが、その逆はほぼ不可能であるということだ。ビットコインで使用される一方向性関数は、具体的にはハッシュ関数であるSHA-256とRIPEMD-160が使用されている。

元データ、ハッシュ関数、ハッシュ値に関しては以下のような関係になっている。

元データ → ハッシュ値

この → の部分がハッシュ関数に該当し、元データをハッシュ関数に入力して、出力されたものがハッシュ値になる。ハッシュ値には元データが少しでも改竄されると得られるハッシュ値が全く異なる値に変化する、同じデータに対するハッシュ値は何度計算しても必ず同じになるといった暗号に適した性質があり、データが改ざんされていないかを確かめる手段として良く使用される。

例えば元データを「NILOG」として、ハッシュ関数であるSHA-256を使用して変換すると以下のハッシュ値が得られる。

「f5479f2d4ff007be0064d4615539843385860ae64c6909dd10775e41e14a11f0」

また同様に「NILOG」をRIPEMD-160を使用して変換すると以下のハッシュ値が得られる。

「17ec970df4482624cd12f184905b2a32a5d58552」

SHA-256とRIPEMD-160の256、160という数字はビット数を表しており、それぞれのハッシュ値の長さは固定されている。8ビット = 1バイトであり、1バイトは16進数の00〜FFの2文字に該当すると考えると、それぞれ256ビット = 32バイト = 64文字、160ビット = 20バイト = 40文字になる。ちなみにビットコインの秘密鍵とビットコインアドレスの文字列表示にはBase58が使用されているが、この58という数字はビット数ではなく文字の種類の数を表している。Base64はアルファベット (a〜z、A〜Z)、数字 (1〜9)、記号 (+、/) と余白詰めのための = を含んだ64種類 (実質65種類) の文字を使用しているが、Base58はそこから混同しやすい数字 (0)、アルファベット (I、O、l) と記号 (+、/) を除いた58種類の文字列表示になる。

ここからは分散型技術と「Proof of Work」の説明に入る。実際のビットコインの取引における送金では、送信者の秘密鍵と受信者のビットコインアドレスが必要になる。送信者はまず秘密鍵から公開鍵を作る。その上で取引内容と受信者のビットコインアドレスを秘密鍵を使用して暗号化し、デジタル署名する。それらの情報を受信者ではなくP2Pの分散型ネットワークを通じて全世界のマイナー (採掘者) に送信 (放送) することで、取引が不正なものではないかが検証、承認された後に晴れて送金完了となる。ビットコインではこのP2Pの部分が分散型技術に該当し、非中央集権型のシステムを実現している。またこのマイナーの検証作業によって未承認のブロックを承認する作業のことを「Proof of Work」と呼んでいる。

「ブロックチェーン」、暗号技術、分散型技術に関しては過去にある技術の応用なのでビットコインの発明とは言えないが、「Proof of Work」はビットコインにおける発明と言える。先程説明した「ブロックチェーン」のブロックの中には実際には取引履歴だけではなく、ブロックヘッダと呼ばれる部分が含まれている。このブロックヘッダはバージョン情報、直前のブロックのハッシュ値、ノンス (Number used once) と呼ばれる使い捨ての値、マークルルート (Merkle root) と呼ばれる取引内容を要約したハッシュ値、タイムスタンプ (Timestamp) と呼ばれるブロックの生成時刻、Difficulty targetと呼ばれるブロック生成時の「Proof of Work」の難易度から構成されている。またこれらの情報はマイニング (採掘) する際の重要な要素を含んでいる。

実際のマイニング (採掘) の流れは以下のようになる。

直前のブロックのハッシュ値、ノンス、マークルルート → ハッシュ値 (未承認のブロック)

この → の部分はハッシュ関数に該当し、上記の三つの値をハッシュ関数に代入することにより、未承認のブロックのハッシュ値を算出することになる。実際にはノンスは総当たりで手当たり次第探すしかなく、適切なノンスを探す作業を、鉱石採掘になぞらえてマイニングと呼んでいるというわけだ。このノンスを最初に見つけた1名はブロックの承認作業に成功したことになり、報酬として新しく発行されたビットコインと取引手数料を得ることになる。これらの報酬を得るために世界中でマイナー、もしくはマイナーの集まりであるマイナープールが競っており、現在ではどの立場であってもマイニングに必要な電気代を上回る報酬を得ることは相当難しい状況になっている。またテクノロジーの進歩によって採掘のスピードと効率は日々高まっているが、先程言及したDifficulty targetを調整することによって、採掘の難易度は2週間ごとに10分程度で誰かが採掘できるような難易度に調整され続けている。このマイニングを通して不正取引、二重取引の可能性を極限まで減らすと共に、ビットコインにおける取引の継続性を担保していると言える。

ビットコイン発行上限量は最初から2100万BTCと決まっており、その上限量に到達するのは2140年頃になると予想されている。それ以降は新しいビットコインは発行されない。またビットコインには半減期があり、210,000ブロック毎に採掘報酬として新しく発行されるビットコインは半減することになっている。実際に2009年当初は50BTCだった採掘報酬は、2017年現在12.5BTCまで減っている。2140年以降は採掘しても手数料しか得られないためにマイニングが継続されるモチベーションが保たれるかどうかは現時点では不明であり、最終的には「コモンズの悲劇」のように乱獲の結果資源が枯渇し、ビットコインの価値が担保されなくなる可能性はある。

ビットコインの「Proof of Work」が素晴らしい点は「ビザンチン将軍問題」を解決したことにあり、「性悪説」に基づいたとしてもマイニングによって人々が合意形成するシステムを構築したことにある。「ビザンチン将軍問題」とは簡単に言えばグループの中に裏切り者がいる、もしくは情報伝達に嘘や改竄の可能性がある場合、どのように合意形成をするかという問題だ。東ローマ帝国 (ビザンチン帝国) の将軍が9人いて、相手に意見を伝達するにはメッセンジャーを送らないといけないが、互いに相手の将軍を信頼できず、メッセンジャーのメッセージは嘘である可能性や、途中で改竄される可能性があるとする。また攻める場合は一斉攻撃しないと勝利できず、多数決で一斉攻撃か一斉撤退を決める場合、合理的に考えて合意形成には至らない。例えば投票制にして4人が賛成、4人が反対に投票した時、9人目の将軍 (裏切り者) が賛成派には賛成票を送り、反対派には反対票を送れば、それぞれが過半数を超えたと思うので賛成派は攻撃し、反対派は撤退する。その際には一斉攻撃にならず、結果として敗北するということだ。

ビットコインの「Proof of Work」では適切なノンスを探すという、正解を探す難易度は高いが、一旦正解が分かれば誰にでもすぐ確認できる問題をマイナーに課すことで、このビザンチン将軍問題を解決している。例えばあるマイナーが裏切り者で嘘を付き、情報を改竄した場合、他の全てのマイナーがそれが事実かどうかをすぐに確認できるのでばれてしまう。その結果嘘を付いたり、情報改竄をして合意形成されることはまずあり得ない。さらに「ブロックチェーン」では直前のブロックのハッシュ値が次のブロックのハッシュ値に関わってくるので、延々と嘘の情報を改竄し続けないといけないことになるが、そんなことをするならそのマイニングにおける計算能力をそのまま使用した方が利益が大きく、効率も良い。これはつまり合理的に考えて悪事を働いた方が損になり、協力した方が得になるということであり、「性悪説」に基づいたとしても合意形成ができるシステムになっているということだ。また「51%攻撃」と呼ばれる、マイニングにおける計算能力の過半数をあるグループが独占した際に嘘、情報改竄が承認されてしまうという問題もあるが、理論上はあり得たとしても今のところその問題は起きていない。

またアルトコインの一部にはビットコインの「Proof of Work」の欠点を克服するために「Proof of Stake」、「Proof of Burn」、「Proof of Importance」といった合意形成アルゴリズムが採用されているものもある。「Proof of Stake」では資産保有率に比例してブロック承認の成功率を高めることで、「51%問題」や採掘能力、消費電力の問題を解決している。「Proof of Burn」と「Proof of Importance」は「Proof of Work」と「Proof of Stake」における先行者利益、富める者がさらに富む状況を打破するために生まれたシステムだ。「Proof of Burn」ではビットコインを誰も知らない秘密鍵のビットコインアドレスに送ることで、ビットコインを二度と使えなくする代わりに、その量に比例したアルトコインを受け取ることができる。これによって発行上限量が決まっているビットコインの価値の一部がアルトコインに移行したことになり、公平性が是正されることになる。「Proof of Importance」ではマイニングだけではなく、資産保有率や取引回数などの活動の貢献度に応じて「importance」のスコアが変動するので、報酬を得られる機会がより平等に是正されることになる。上記のようにビットコインの欠点を様々な側面から改善したアルトコインは現在多数存在している。

最後にEdy、Suicaなどに代表される電子マネーとビットコインに代表される仮想通貨は全く違うものであることを簡単に述べておく。違いは例外はあるものの、主に以下の6点になる。

1. 双方向性の有無
2. 管理者の有無
3. 限度額の有無
4. 手数料の高低
5. 価格が固定か変動か
6. 通貨であるか否か

1に関しては電子マネーはチャージして一回使用するだけであり、電子マネーを他の通貨に変えることはできない。一方で仮想通貨は支払われた側が、延々と使用することができ、他の通貨に変えることもできる。2に関しては電子マネーは中央集権的に管理者が存在するが、仮想通貨に関しては通常管理者は存在しない。通常と言ったのはビットコインには存在しないが、アルトコインの中には管理者が存在するものもあるからだ。3に関しては電子マネーはチャージにおける限度額が決まっているが、仮想通貨には限度額という概念は存在しない。4に関しては電子マネーは手数料が高く、国際送金には使用不可能だが、仮想通貨は手数料が低く、国際送金に関しては他の通貨よりも優位性がある。5に関しては電子マネーは固定相場制を採用しているために、価格が常に固定されているが、仮想通貨は変動相場制を採用しているために、価格が常に変動している。6に関しては電子マネーは現金を電子化したものという意味で通貨とは言えないが、仮想通貨は決済システムであると共に、性質的にも、法律的にも通貨であると認められている。

仮想通貨バブルとフィンテックバブル: 連載記事リンク

「仮想通貨バブルとフィンテックバブル 前編: ビットコインとブロックチェーンの仕組み」

「仮想通貨バブルとフィンテックバブル 中編: 仮想通貨バブル」

「仮想通貨バブルとフィンテックバブル 後編: フィンテックバブル」

仮想通貨革命
仮想通貨革命
著者: 野口悠紀雄

ビットコインとブロックチェーン: 暗号通貨を支える技術
ビットコインとブロックチェーン: 暗号通貨を支える技術
著者: アンドレアス・M・アントノプロス
訳者: 今井崇也鳩貝淳一郎

VALUについて 9: VALUについての結論

最後にVALUについての結論をまとめると、VALUはβ版で不完全とはいえ、フィンテックを標榜する金融サービスでもある。通常株式で投資や投機を行う際に、「新しさ」、「早さ」だけを軸に判断することが危険であるように、自分でしっかり吟味した上で判断するべきだ。幾ら実験中のサービスとは言え、そこで失われた金銭は戻ってこない。人は全く似たような物事に対して言葉、言い方、印象を変えるだけで、真逆の判断を行う事例が多々ある。それは全く違う物事に対しても有効で、それは端的に言えば記号の問題であり、今回のVALUに関してもその問題を抱えていると言える。

例えばファッション用語は日々開発され続けており、同じようなものが半年後は違う名前、キャッチコピーで売られている可能性がある。また流行色は「インターカラー」、「JAFCA」という委員会によって1年半〜2年前に事前に決められていることが知られている。これらが何を意味するかと言えば、売る側は記号を巧みに操ることで、買う側に対して常に「おしゃれさ」を仕掛け続けているということだ。他の例で言えば銀行の口座晒しに対して寄付はしたくないが、VALUは買ってみようと思うこと。アイドルのCDに付いてくる握手券を買い集めることに対しては批判的だが、VALUは買ってみようと思うこと。これらは構造的には余り変わらないことなのだが、どちらか一方のハードルが低いと思った場合はそれが何故なのか、両者の違いはどこにあるのかを徹底的に考え抜いた上で判断する癖を付ける必要があるだろう。

またVALUの理念自体は素晴らしいが、現状今までの記事で書いてきたようなイメージと実態の乖離の問題、システムの問題、哲学的な問題、アーリーアダプター、インフルエンサーの問題など大量かつ多様な問題があり、運営の問題を超えた部分を含めた根本的な問題が解決される可能性は極めて低い。VALUの理念で救いたい対象の一部は、どちらかと言えば社会保障やベーシックインカムなどの議論で議論されるべき対象であるようにも思える。VALUの運営は現在、ランキングにおける時価総額枠の廃止、ピックアップ、新着枠の追加、最初に売り出せるVA数の制限、24時間以内のVALUの取引回数の制限、値幅制限、投資、投機の目的での登録を抑制する方向性を打ち出して事態の改善を図っているものの、それらは対症療法であって、上記に挙げたような根本的な問題の解決にはならない。さらに宣伝では「疑似株式」のイメージを強調した一方で、投資、投機を抑制するのは矛盾のようにも思え、それによって新規流入が減ることも考えられる。

VALUに関しては新しいから批判があるのではなく、圧倒的に古く、問題点とリスクが明らかであり、公平性に欠けたシステムであるから批判があるということは理解した方が良い。優待が守られないか価値がないと見なされる、もしくは流動性が落ちる、発行者が退会してVALUERが購入したVALUの価値が0になったなどの事態が今後予想されるが、それらが増えてきた段階で社会問題化する恐れがある。フリーミアムというビジネスモデルでは、負担の割合が不平等になった分、プレミアムにはその見返りが保証されていた。しかし現状のVALUにおけるVALUERはリスクが圧倒的な割に、見返りがほとんどない状態であることには注意が必要だ。「There’s no such thing as a free lunch.」という教訓はフリーミアムのものでもあったはずだが、高い授業料を支払うことになるのは常に思考停止した人間の側であることは覚えておきたい。

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「VALUについて 1: VALUの用語」

「VALUについて 2: VALUの新規登録、審査、利用方法」

「VALUについて 3: VALUとは何か?イメージと実態の乖離」

「VALUについて 4: VALUの問題点」

「VALUについて 5: VALUにおける哲学的に発展して考えた際の問題点」

「VALUについて 6: VALUとイノベーター理論」

「VALUについて 7: VALUにおけるアーリーアダプター、インフルエンサーの問題点」

「VALUについて 8: VALUにおける新しさの自転車操業とスピリチュアリズムの構造」

「VALUについて 9: VALUについての結論」

VALUについて 8: VALUにおける新しさの自転車操業とスピリチュアリズムの構造

前回の問題点を総合して考えると、アーリーアダプター、インフルエンサーは次々と登場するサービス、商品に対して新しさの自転車操業をしており、煽り、正当化に使用されるロジックは限りなくスピリチュアリズムと似たような形態に近づいている。その新しさの自転車操業は特に新しくはなく、むしろ圧倒的に古いこと、それがポジショントークに基づく不公平なものであるならば、長期的には信頼を失うハイリスクなものであることは既に指摘した。またその自転車操業を続けていく限りにおいて、彼らは一見ジャン=ポール・サルトルの言う「自由の刑」、つまり自分の意志で決断し続ける刑に処されているように見えるが、実態は「哲学的に発展して考えた際の問題点」で述べたように、「Standing-reserve」 = 「在庫品」になる、もしくは「評価経済」を取り込みつつある「資本主義」のヒエラルキー、ランキングシステムの構造に飲み込まれつつあり、そこは自由意志も「自由の刑」も存在しない不自由な世界だ。人間にはやる自由もあれば、批判する自由もあれば、やらない自由もある。

「新しさ」、「早さ」を常に意識させることは思考停止に繋がる恐れが高く、それを強調するロジックは選民意識に近づき、先程述べたような危険で脆いロジックが飛び交う状況はスピリチュアリズムと似た構造を持っている。新しいものは確かに批判されやすいために、そういうものに対するテンプレートとしての反論があるのは分かるが、恣意的に的外れな批判を仮想敵として取り出し、雑にそのテンプレートで処理し、敵か味方かという二者択一を迫り、炎上の末に友敵理論の構造を作り出すのは余りに単純化し過ぎている。思考停止、仮想敵、友敵理論、ポジショントーク、単純化したロジックの使用はスピリチュアリズムの常套手段であり、そこに「新しさ」、「早さ」を利用した選民意識が加わればそれは新しいカルトにもなり得る。

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VALUについて 7: VALUにおけるアーリーアダプター、インフルエンサーの問題点

今回の記事では前回の記事の内容の続きとして、VALUにおけるアーリーアダプター、インフルエンサーの問題点を挙げてみる。彼らはオピニオンリーダーとしての影響力が強いため、その責任も自ずと大きくなる。問題点としては、以下の2点が挙げられる。

1. アーリーアダプター、インフルエンサーなどの言う「新しさ」は少なくとも最先端の現場から見て数十年程度は遅く、圧倒的に「古い」可能性が高い。

2. 「実際にやらずに批判するな」というロジックを乱用することは危険であると同時に脆く、建設的な批判を遠ざける。

1に関してはそもそも「イノベーター理論」が普及モデルであることを思い出す必要がある。サービスや商品が普及する前に行われることと言えば、最先端の現場による研究、制作、開発などのプロセスであり、それらは当然イノベーター、アーリーアダプター、インフルエンサーなどが目を付ける遙か以前の話だ。例えばビットコインを支える中心となる技術であるブロックチェーンは、1990年代にStuart Haber、W. Scott Stornettaによる論文である『How to Time-Stamp a Digital Document』の中で提唱された技術だ。2008年にSatoshi Nakamotoによるビットコインの論文である『Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System』が発表されたことによりブロックチェーンは一気に注目を浴びた。この経緯によりブロックチェーンは新しい技術と思われがちだが、実はこの技術自体は今から数十年前に提唱されていた古い技術だ。またアート作品で言えばフィンセント・ファン・ゴッホの作品を挙げるまでもなく、死後の評価が最重要の意味合いを持ち、数十年、数百年単位で評価ががらっと変わることも珍しくない。そういう意味ではイノベーターなどを遙かに超える単位で新しく、早過ぎる世界が存在していることが分かる。

ただ理学、自然科学などの基礎研究、アート、哲学などの抽象表現、思想などは圧倒的に新しく、早過ぎるためにほとんどの人に理解されず、スケールしないために初期段階では全くお金にならない場合も多い。そういった最先端の現場から見れば古い研究、技術、表現、思想などが一番お金になるのは工学、デザインなどの分野に応用された瞬間であり、基礎が応用に変わる瞬間を多くの人が新しい、イノベーションと呼んでいることになる。これはインベンション = 発明ではなく、イノベーション = 技術革新という言葉の意味からも明らかだ。名前や形を変える、もしくは歴史を忘却することによって本当は圧倒的に古いものが新しいものだと宣伝される例は枚挙に暇がなく、注意が必要だ。技術的に優れているか、新しいかどうか、クオリティが高いかどうかは普及するかどうかとは必ずしも因果関係にはなり得ず、場合によっては負の相関関係にすらなり得る。

ここでアーリーアダプター、インフルエンサーなどが「新しさ」、「早さ」を重視する理由を考えてみたい。簡単に言えばそれは良く言われるように、先行者利益があるためだ。先程の「キャズム理論」と合わせて考えると、「新しさ」、「早さ」を殊更強調するのはキャズムを超えるためには必ずしも有効な戦略ではないことが分かるが、先行者利益がある場合は確かに短期的には「新しさ」、「早さ」に飛びつくフットワークの軽さは有利に働く可能性が高い。一方で先行者利益はポジショントークに使用することも可能であり、長期的にはマイナスに働く可能性もある。それは先行者利益、小利口などの言葉で煽られた人々が参入した結果、初期にいた人間の利益になるだけで損をするなどした場合、そのポジショントークを受けた側の人々からの信頼は失われるからだ。ちなみにポジショントークとはポジションや立場をはっきりさせて発言するという意味ではなく、自分のポジションに有利になるように人を誘導し、公平性に欠けた発言をするという意味だ。彼らは基本的に責任が発生しない立場であるため、ポジショントークに釣られてやった結果損をしたとしてもそれは自己責任になる可能性が高く、彼らにとっては自分の注目度が上がれば結果として損にはならない。最終的には批判が多くて潰されたなどの事実を歪曲した言い訳、もしくは次から次へと現れる「新しさ」を装った「古い」ものを「先行者利益」、「破壊的イノベーション」などのラベルを付けて煽ることによって、過去の失敗は一瞬で忘却され、人々は動員され続けるだろう。

2に関してはこれも良く言われることだが、「実際にやらずに批判するな」という一見もっともらしい意見を乱用することの危険性を説明してみる。これも確かにやらないと分からない部分がある可能性はあり、やらずにする批判に一定の問題がある場合はあるだろう。ただし全ての状況に対してこのテンプレートを使用すると重大な問題が起きる。何故ならこれと全く同じロジックを使用して、例えばカルトや違法な麻薬の使用を批判できないことになるが、それは明らかにおかしいからだ。カルトに売りつけられた壺を「買ってみないと分からない、買わずに批判するな」、違法な麻薬を勧められて「麻薬はやってみないと分からない、やらずに批判するな」と言われた場合を考えれば、特に説明するまでもなくこのロジックの危険性と脆さが分かる。

またこのタイプのロジックを乱用してしまうと建設的な批判がなくなり、健全な発展が望めなくなる。例えば「実際にやらずに批判するな」というロジックは「実際に作ってないのに批判するな」という昔から延々と繰り返されてきたロジックとも構造が似ているが、これも実際に作らないと批判できないのならば、大半の人間は批判できないことになってしまう。これらは極論に近い部分もあるが、何に対してもこのタイプのロジックを使用して反論することもまた、極論になってしまうことの証明にはなるだろう。さらに人間には実際に経験していない物事を判断できる抽象化能力が備わっており、これを鍛えるために過去の経験、知識、知恵を学ぶのであって、経験しないと何も言えないのなら、この世界のほとんどのことに対して誰も何も言えないことになってしまう。VALUに関してはやっていなくても、株式投資、金融などの経験、知識を活かして批判している人もおり、その人たちに限らず様々なバックグラウンドを持つ人の意見に耳を傾けることはサービスの健全な発展に欠かせない要素だ。独自に判断した上でやらない自由、批判する権利は誰にでもある。

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「VALUについて 2: VALUの新規登録、審査、利用方法」

「VALUについて 3: VALUとは何か?イメージと実態の乖離」

「VALUについて 4: VALUの問題点」

「VALUについて 5: VALUにおける哲学的に発展して考えた際の問題点」

「VALUについて 6: VALUとイノベーター理論」

「VALUについて 7: VALUにおけるアーリーアダプター、インフルエンサーの問題点」

「VALUについて 8: VALUにおける新しさの自転車操業とスピリチュアリズムの構造」

「VALUについて 9: VALUについての結論」

VALUについて 6: VALUとイノベーター理論

今回の記事では「イノベーター理論」を通して、アーリーアダプター、インフルエンサーとは何かを説明する。何故ならアーリーアダプター、インフルエンサーはVALUの宣伝において大きな役割を担う一方で、今回の彼らの発言の一部にはかなり問題のある発言が含まれていたからだ。

まず前提として「イノベーター理論」はエヴェリット・ロジャースが『Diffusion of Innovations』の中で提唱した概念だ。彼によれば、新しい概念、習慣、サービス、商品などが普及するには「イノベーター」、「アーリーアダプター」、「アーリーマジョリティ」、「レイトマジョリティ」、「ラガード」という5つの層を経るとされている。

それぞれの用語の定義は以下になる。

イノベーター: 最も革新的であり、新しいものを最初に採用する人々。全体の2.5%を占める。

アーリーアダプター: 革新的であり、余り流行していない初期市場の段階で採用する層。全体の14%を占める。

アーリーマジョリティ: アーリーアダプターの意向を元に採用する層。全体の34%を占める。

レイトマジョリティ: 保守的であり、世の中の大半が採用した後に採用する層。全体の34%を占める。

ラガード: 最も保守的であり、伝統になってから採用する層。全体の16%を占める。

イノベーターは数が少なく、メリット、デメリットに関係なく採用するが、アーリーアダプターは数がある程度多く、メリット、デメリットを含めて採用を決める傾向にある。そのため「イノベーター理論」の中では、アーリーアダプターは影響力が大きく、普及を促すという意味で最重要視されている。またこの性質からアーリーアダプターはインフルエンサー、オピニオンリーダー、マーケットメーカーと呼ばれることもある。

この「イノベーター理論」に対してジェフリー・ムーアが『Crossing the chasm』の中で提唱した「キャズム理論」では、「アーリーアダプター」と「アーリーマジョリティ」の間には深く大きな断絶 = キャズムがあると指摘している。その原因としては前者は他の人がまだ採用していないことに魅力を覚える一方、後者は他の人が採用していることに安心感を覚えるという心理的な違いが影響しており、キャズムを超えた普及を促すためにはこの違いを考慮したマーケティングのアプローチが必要であると述べている。

これらのイノベーターのようにリスクが分からない段階で飛び込んでいく「ファーストペンギン」、アーリーアダプターのようにリスクがあると分かっていても飛び込んでいく「リスクテイカー」は社会にとって極めて重要な役割を担っている。ここに疑いの余地はなく、今後このような人材の重要性はさらに増していくだろう。しかし一方で、アーリーアダプター、インフルエンサーにおけるオピニオンリーダーとしての問題点もあり、それに関しては次回の記事で説明する。

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「VALUについて 1: VALUの用語」

「VALUについて 2: VALUの新規登録、審査、利用方法」

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VALUについて 5: VALUにおける哲学的に発展して考えた際の問題点

今回の記事では、VALUにおける哲学的に発展して考えた際の問題点を考えてみる。これは前回よりもさらに根本的で抽象的な話になるが、個人的には前回挙げたどの問題よりもこの問題の方が長期的に見て深刻な問題であり、興味の対象はこちらにある。問題点としては以下の2点が挙げられる。

1. マルティン・ハイデッガーの言う「Standing-reserve (在庫品)」の概念が発動し、人間が自立性を失って均質な「在庫品」として扱われるようになる。

2. 評価経済が資本主義に飲み込まれ、相対評価の新しい物差し、ヒエラルキーとしてVALUが人間の価値を測定し始める。それはジェレミ・ベンサムの言う「パノプティコン」、ミシェル・フーコーの言う「Biopower (生権力)」を体現し、自由意志に基づく行動が抑制される。

1に関しては個人が「疑似株式」を発行できるというよりは、トレーディングカードのようという比喩が出てきているように、VALUでは発行者自体を「物」としてみなし、それを「在庫品」として取引しているように見える。そこでは様々な多様性は一様に数値として測定され、値段が付けられ、売買取引される。これは正しくマルティン・ハイデッガーが存在論的にテクノロジーを批判した「Standing-reserve」の概念を体現してしまっているように見える。

この種類の批判は単純に行き過ぎるとテクノフォビアと変わらなくなる恐れもあるので扱いには注意が必要だが、シンギュラリティを基盤としたなめらかな社会に対する違和感もここにある。今後最先端のAI、身体拡張、バイオ技術などを通して物理的なレベルで全く違う種類の人間が生まれてくる可能性があり、それに伴って近代、現代における人間性というものはもの凄いスピードで形を変えていくだろう。その際に過去の人間性のようなものは捨て去られ、随時アップデートされていくことが予想される。しかし、そこで単純に人間性の問題が終わるのかといえば全くそうではなく、新しい人間による新しい人間性の問題は形を変えて提示され続けるだろう。ここから考えるとテクノロジーによる変化を積極的に受け入れる姿勢は必要だが、テクノロジーが哲学上の問題を含めて全ての問題を解決すると考える万能論は科学万能論同様に疑問符が付くことが分かる。

そもそもお金、通貨は共同幻想であり、仮想通貨、VALUなどもそこに価値があると信じる共同幻想が成り立つことによって価値を担保している。VALUによって通貨という概念がなくなるなどという意見もあるがそれは見当違いの話であって、通貨は今後も様々に形を変えて共同幻想を生み続けるであろうことは間違いがない。国民国家という概念もその共同幻想を利用して作られたものであることは、ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』を読めば分かるだろう。共同幻想とはそれ程までに強いものであり、権力者によって様々な形でその力は利用されてきた。

ここで一旦話を資本主義に移行すると、資本主義の問題点の一つとしてヒエラルキー、ランキングシステムの問題がある。お金は共同幻想であるが、資本主義においてはお金の多寡でヒエラルキーが作られ、それを保有する量が多い方が価値がある人間であるかのようなランキングシステムが成立している。もちろんこれらのヒエラルキー、ランキングシステム自体が共同幻想であり、この世界に絶対的な物差しは存在していないので、この構造自体は全て嘘で成り立っている。だが嘘は大多数が信じていれば真実と等しい力を持つというのは「Post-truth」で証明されていることだ。

これらの前提を踏まえた上で2の問題の話に入ると、評価経済は資本主義に対抗するための新しい評価軸として生まれたかに見えたが、現状多様性を殺し、逆に資本主義のヒエラルキー構造に飲み込まれる、もしくはそれを補強するような動きを見せている。少なくともVALUにおける評価経済とは評価という極めて定性的な概念を、特定のSNSでの友達、フォロワー数という極めて定量的な数値で測定しており、発行者の多様性は全てVALUを通して可視化、数値化されて売買されている。これが何を想起させるかと言えば、先程の資本主義におけるヒエラルキー、ランキングシステムであり、VALUの価値の高さを物差しとして人間の価値が測定され始めるのも自然の流れだろう。

これはVALUだけではなく、これから出てくる類似サービス全てに言えることであり、それらの構造に一旦飲み込まれれば、競い続ける中で順位付けられた人間はシステムの1個の歯車へと変貌する。これは最終的にはジェレミ・ベンサムの言う「パノプティコン」、ミシェル・フーコーの言う「Biopower (生権力)」を体現する。パノプティコンとは監獄モデルのことであり、人は監視者がいなくても誰かに見られているという意識が芽生えるだけで、自由意志に基づく行動が抑制される。この暗黙の相互監視における監獄モデルを一般化し、権力モデルの概念として提唱されたのが「Biopower (生権力)」になる。数に還元された評価における終わりなき競争は、そのシステムの中で1位を取り続けることを要求し、そこから逃れようとする人々は敗者の烙印を押される。しかしそもそも評価という数に還元できない要素で競っている時点で、根源的にはそのシステムは嘘で成り立っている。ランキングシステムは勝者と敗者を絶え間なく分断して競争に駆り立て続けるが、その競争に乗った時点で既に仕掛けられている側であり、1位を含めて敗者しか存在し得ない構造になっている。これは半永久的にケージに閉じ込められ、回し車の中で走り続けるモルモットのようなものだ。

個人的に岡田斗司夫の言う評価経済より坂口恭平の言う態度経済の方が好きなのはここに原因がある。評価経済は主に相対評価で成り立つが、態度経済は絶対評価で成り立つ。相対評価は常にヒエラルキー、ランキングシステムを作り出すが、絶対評価はそれらとは一切関係のない地平を作り出す。元はと言えば必ずしも金銭に限定して還元されない価値を持つのが評価経済の良い点だったはずだ。しかしVALUにおいては金銭としての還元、取引が強調され過ぎてしまった結果、資本主義に取り込まれ、自由を失うという本末転倒な状況を作り出してしまっている。以前「全てのアーティストは通貨発行権を持っている」という記事で最も伝えたかったメッセージは「自分の価値は自分で決めるべき」ということだ。アーティストはそれを作品を通して実践することが可能で、そういう意味で通貨発行権を持っているという意味だったのだが、「自分の価値は自分で決めるべき」というのはアーティストに限らず全ての人に対して言えることだ。

VALUについて: 連載記事リンク

「VALUについて 1: VALUの用語」

「VALUについて 2: VALUの新規登録、審査、利用方法」

「VALUについて 3: VALUとは何か?イメージと実態の乖離」

「VALUについて 4: VALUの問題点」

「VALUについて 5: VALUにおける哲学的に発展して考えた際の問題点」

「VALUについて 6: VALUとイノベーター理論」

「VALUについて 7: VALUにおけるアーリーアダプター、インフルエンサーの問題点」

「VALUについて 8: VALUにおける新しさの自転車操業とスピリチュアリズムの構造」

「VALUについて 9: VALUについての結論」

VALUについて 4: VALUの問題点

今回の記事では、今まで説明してきたVALUのシステムから敷衍して考えてみる。するとVALUの問題点としては、以下の6点が挙げられる。

1. 実態は寄付/投げ銭/トレーディングカード 〜 クラウドファンディング/ファンクラブの中間のようなサービスであるが、そのターゲットが明確化していない。

2. 株式、投資、投機、上場のような実態とは異なるイメージを与える言葉が宣伝やサービスを広めている人々の間で使われている。

3. VALUの仮想通貨、税金を含めた法律上の扱いが不明であり、サービスを悪用すればネズミ講、マルチ商法、MLM、マネーロンダリングなどに使用できるシステムになってしまっている。

4. VALUの運営者、発行者はほぼノーリスク、VALUERはハイリスクである。

5. VALUの価値がビットコインに依存している。

6. VALUの類似サービスが出た場合、ICOのように投資、投機の動きがさらに加速する、もしくはVALUの価値が相対的に暴落する可能性がある。

1に関しては優待が無ければ寄付/投げ銭/トレーディングカード、あればクラウドファンディング/ファンクラブに近いサービスになる。だがその線引きが明確でないために、Giveとして応援だけすれば満足なのか、Give and TakeとしてリターンがほしいのかがVALUERによって違い、その相違が問題になる。発行者になる動機、VALUERになる動機が根本的に違う場合、サービス維持の要となる長期的な信頼を得ることは難しい。

2に関しては先程の宣伝の仕方の問題で投資、投機が目的の人が多数流入しており、その人々はGive and TakeもしくはTakeを目的にしているため、さらに場が混乱する。サービス開始当初は1の線引きが明確ではないこと、「疑似株式」であることを示唆する宣伝方法によって新規参入と流動性が高まっていた。しかしVALU開発者である小川晃平の発言を引用すれば、このサービスの理念は「ビットコインを使えば、住む場所や環境に関係なく、金銭的な理由で諦めざるを得なかった夢や目標に向かって挑戦し続けられる場所をつくれるかもしれない。」ということなので、今後はGive、もしくはGive and Takeに絞った運営がされていくことが予想される。現状運営による対応が追いついていないが、この方向性が明確になり、システム改善がなされることによって長期的な信頼を獲得できる可能性はある。ただその場合は逆に流動性が減ることが予想され、諸刃の剣にもなる。

3に関しては現状VALUのサービスは合法であると言っているものの、システムを悪用すれば限りなく詐欺に近い行為を行えるので、将来的にシステムの変更や法的な規制が入ることはほぼ間違いがない。また専門家でもVALUが2号仮想通貨に該当するのかどうか良く分からないと言っている状態であり、税金の扱いについてはもっと分からない状態だ。なので現状VALUについては課税されると思って運用しておいた方が良いくらいにしか言えない。

4に関してはVALUの運営者は発行手数料、売買手数料を得ることができ、発行者は資金調達をほぼノーリスクで行えるために、VALUERが圧倒的に不利な立場になっている。そのVALUERを保護するようなルールが存在しないことは致命的な欠陥になる。資金調達に根拠がない、必要がないことはエンジェル投資家的な発想だが、今VALUERになっている人たちがエンジェル投資家のような覚悟でVALUERになっているとも、そこまで資産に余裕のある富裕層が参加しているとも思えない。伊藤穰一の言うところの「計画は不要」、「地図よりコンパス」というのは完全にその通りなのだが、それは「守破離」における「離」の世界においての話であり、資金調達においてそれをそのまま全てのケースに当てはめることはできない。例えば「報・連・相」などはボトルネックになるのでできれば採用するべきではないシステムだが、これも先程と同じく「離」の世界の話であり、基礎ができていない状態でいきなりその段階をやらせようと思っても上手くいかないことがあるのと構造的には同じことだ。VALUの増資については発行者が新しくVALUを発行することを増資と呼ぶのか、全てのVALUを発行し終えた後にVALUを追加で発行することを増資と呼ぶのか不明だが、前者の場合も後者の場合も現状厳密にルールが決まっておらず、ルール改訂によっては全員共倒れ、もしくはVALUERがさらに不利になることが予想される。

5に関してはサービスを利用する全員のリスクになる。VALUの価値をそもそも何が担保しているかと言えばビットコインだ。ビットコインの相場における価格変動率の高さは激しいものがあり、仮にビットコインの価値が半分になればそれはVALUの価値も半分になることを意味する。もちろんビットコインの価値が上がればその分VALUの価値も上がるが、たとえVALUの価値が上がってもビットコインの価値が下がれば損をすることも考えられる。これが何を意味するかと言えば、VALUのサービスを利用する人はVALUだけではなく、このビットコインの相場、仮想通貨全体の動向にも気を配る必要があるということだ。現状ビットコインを支える技術であるブロックチェーンは高レベルの信頼性を確保しているが、取引所に関してはマウントゴックス事件に代表されるようにクラッキング、人為的な犯罪を含めてセキュリティホールになる可能性はある。またここでの詳述は避けるが、ビットコインは現在様々な問題を抱えており、特にスケーラビリティ問題における規格分裂の問題を乗り越えられるかが今年最大の山場になる。他にも三菱東京UFJ銀行の「MUFGコイン」が先月から実証実験を開始しており、Appleの「Apple Pay」、Googleが出資したRipple Lab社の「XRP」の動向を見ていると、今後ビットコインに対する極めて強い競合が仮想通貨の世界におけるチューリップ・バブルを引き起こす可能性は高く、今後もビットコインの相場は極めて不安定になることが予想される。

6に関しては今後のVALUの推移と法規制の動きにもよるが、将来的にはVALUの類似サービスが出てくることが予想される。仮にそうなった際にはVALUはICOの銘柄の一つのような状況になり、投資、投機の動きがさらに加速する、もしくはVALUの価値が暴落する可能性がある。ICOについて簡単に説明すると、株式の世界では株式を新規公開することをIPO (Initial Public Offering) と呼ぶが、仮想通貨の世界では仮想通貨を新規公開することをICO (Initial Coin Offering) と呼ぶ。またビットコインの代替としての仮想通貨はまとめてアルトコインと総称されている。このICOによってスタートアップ、ベンチャー企業などが独自の仮想通貨 = アルトコインを発行して資金調達を行っており、現在その規模は完全にバブルの様相を呈している。ICOに関しての情報を眺めていれば分かるが、そこに含まれるアルトコインの中には明らかに詐欺目的であるものや、怪しすぎる有象無象が蠢いていることが分かる。VALUではビットコインと結びつけることによって価値を担保しているが、先程5でも述べたようにビットコインも安定しているとはいえない状況で他の仮想通貨と結びつけたり、サービスをマイナーチェンジしたような類似サービスが出てきた場合、それはほとんどICOと変わらない状況になり得る。その場合のVALUとの互換性の問題、複数のサービスを次々と乗り換えて資金調達をした場合、VALUの価値が相対的に暴落することが予想される。さらに類似サービスの登場はほぼVALUの運営のコントロール外にあるので、この場合は運営がサービスを改善する、しないの問題ではない。

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「VALUについて 4: VALUの問題点」

「VALUについて 5: VALUにおける哲学的に発展して考えた際の問題点」

「VALUについて 6: VALUとイノベーター理論」

「VALUについて 7: VALUにおけるアーリーアダプター、インフルエンサーの問題点」

「VALUについて 8: VALUにおける新しさの自転車操業とスピリチュアリズムの構造」

「VALUについて 9: VALUについての結論」

VALUについて 3: VALUとは何か?イメージと実態の乖離

そもそもVALUとは何か。今回の記事ではそれについて公式から2点引用した上で説明してみる。

・「VALUは、個人で発行できる『擬似株式』です。VALUサービス内での取引が可能です。」

・「VALUは、だれでも、会社の株式に見立てた ●VL を発行できるサービスです。カンタンに発行して、好きな価格をつけて、他の人と売り買いすることができます。」

VALUでは「疑似株式」という言葉が使用されているように、株式のシステムを個人に当てはめたイメージで運営しようとしていることが分かる。これはキャッチコピーとしてはキャッチーで分かり易いので優秀と言えるが、実態とはかけ離れているので最も批判されるポイントだろう。株式と異なる点は主に以下になる。

・株式では株券を持っていると自益権と共益権が発生するが、VALUではそれらは発生しない。

・株式における時価総額 = 株価 × 「発行済」株式数だが、VALUにおける時価総額 = 株価 ×「発行可能」株式数になっている。

上記について簡単に言えばVALUは投資ではないということだ。株式の投資によるリターンには大別してインカムゲインとキャピタルゲインがある。単純化して言えばインカムゲインは株券を保有していることによる配当金、キャピタルゲインは株価が上昇した際に株券を売却することで得られる差分による収益のことを指す。VALUでは発行者がVALUERに対して優待を設定しないことも可能であり、設定しない場合はキャピタルゲインを狙わない限りは寄付とほぼ変わりがない。優待を設定した場合はクラウドファンディングのような使い方をすることも可能になるが、内容は発行者それぞれであり、明確な基準は存在せず、そもそも法律上インカムゲインとして配当金を分配することはできない。株式における自益権とは投資した会社から利益を受ける権利のことを指すが、これらのことからVALUにおいてそれは存在していないことが分かる。

キャピタルゲインに関しても評価という基準が数値化しにくく、流動性の高い基準に依拠しているため、価格が上下する根拠が不明瞭だ。また株式では出来高という取引で売買が成立した回数が重要な指標になるが、VALUにおける流動性は一部を除いて活発にはならないことが予想され、その場合誰かのVALUを保持したまま売りたくても売れない状況、もしくは発行者がVALUを発行してもVALUERが全く付かないというような状況が予想される。その意味で言えばVALUを投機として捉えた場合のメリットも見出だすことは難しく、そのようなサービスの使用方法も運営から推奨されていない。

また共益権とは簡単に言えば「株主総会」に代表されるように経営に口出しをする権利のことだが、VALUERは発行者に対して何ら責任を負わない。VALUERが発行者にメッセージを送って話し合うことくらいはできるかもしれないが、これは共益権のような権利とは異なり、強制力は発生しない。Facebook、Twitter、Instagramなどとアカウントが紐づけられているから抑止力が働くかと言えば、「システムやテクノロジーは考えられうる限り最大限悪用される」という性質に沿って考えればリスクヘッジとしては失格だろう。現状特に設定した優待をしないことによるペナルティもないわけで、何かあった場合は最終的には逃げられ、泣き寝入りして終わりになる。またVALUの規約から引用すると「当社は、会員によるVALUの発行、及び、会員間でのVALUの売買の場の提供及び運営を行います。会員間のVALUの売買及び優待の履行等については、全て当事者の自己責任とし、当社は自ら売買を行わず、売買の委託を受けるものでもありません。」とあり、「VALUの売買」、「優待の履行」で何か問題が起きた際は当事者の自己責任になることが明言されている。

時価総額に関しては株価 × 「発行済」株式数ではなく、株価 ×「発行可能」株式数で計算すると、現状少なく見積もっても数十倍〜数百倍の違いが出る計算になり、当然後者の方が多く見える。これらは株式における基礎知識であり、「疑似株式」という言葉や時価総額の計算方法に関しては、宣伝のために意図的に誤解を生む表現と計算方法にしているとも考えられる。

株式における代表的な違法行為と言えばインサイダー取引であるが、現状VALUではそれを規制するルールはない。これが何を意味するかといえば、発行者側で意図的に価格操作をすることが可能であるということだ。またVALU株式会社が倒産する、もしくは発行者が退会した場合はそのVALUの価値は0になる可能性があり、その場合の損失は全てVALUERにかかることになる。さらに発行者が亡くなった際、そのVALUがどうなるかは分からない。現在VALUでは株式分割ができないため、価格が上がりすぎた場合は出来高などの流動性が落ちる可能性も高い。このようにVALUの性質をまとめてみると、VALUを株式のイメージで捉えることは、その実態とは大幅に乖離していることが分かる。

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「VALUについて 5: VALUにおける哲学的に発展して考えた際の問題点」

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「VALUについて 7: VALUにおけるアーリーアダプター、インフルエンサーの問題点」

「VALUについて 8: VALUにおける新しさの自転車操業とスピリチュアリズムの構造」

「VALUについて 9: VALUについての結論」

VALUについて 2: VALUの新規登録、審査、利用方法

今回の記事では、VALUEの新規登録、審査、利用方法について説明してみる。VALUを利用するためにはまずFacebookに登録している必要があり、VALUの運営の審査を経た上で承認される形になる。審査に受かるかどうかは総合的に判断されているとのことだが、特に問題がない場合の審査基準は主にFacebookの友達の数、Twitterのフォロワー数、Instagramのフォロワー数の三つであり、これらのSNSでの数が一定数に満たないと利用できない。またこれらの数値は発行者の現在値、時価総額、発行VA数などの初期値に影響する。

この特定のSNSにおける友達、フォロワー数を基準に初期評価が決まる点は、賛否両論を生むポイントの一つになっている。VALUは評価経済を参考に作られているサービスと言えるが、評価という限りなく定性的な概念を定量的に無理矢理数値化している感は否めず、その基準の妥当性に対する批判はあるだろう。それらのSNSでの評価によって登録できない有象無象がいる点に関しては、NILUでもネタになっている通りだ。またBTCを利用するという性質上、外部の取引所での登録を済ませる必要があり、「BitFlyer」「Zaif」「Coincheck」のいずれかが推奨されている。

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「VALUについて 9: VALUについての結論」

VALUについて 1: VALUの用語

今日からの9日間は、現在話題沸騰中のVALUについて論点を整理しつつ、全9回にわたる連載記事として詳細にまとめてみる。現状否定派だが、ヴィジョン、コンセプトとしては実験的な試みではあるので、これから発展していった際にはどうなるか厳密には分からない部分もある。しかし、β版の段階ではシステム上の問題が山積していることは賛否どちらの立場であっても同意できる話だろうし、これからVALUのシステムが大幅に変更されていくことはほぼ間違いがなく、NILUのようなパロディではない類似サービスが出てきた際の問題も検討する必要がある。現状法的な問題はクリアしているらしいが、法や倫理の問題は後追いで整備、検討されていくので、それらを含めた規制と評価についてはまだ先の話になる。

まず初回となる今回の記事では、VALU関連の主要な用語を以下のように簡単に整理してみる。

VALU: サービス名。

VL: VALUでの株券のようなもの。VLとVAの違いが分かり辛いので、VL ≒ VAとしてVAの方が主流で使用されていくことが予想される。

VA: VLの単位。1VA = ?BTCのように換算される。

BTC: ビットコイン、またはビットコインの単位。

発行者: VALUの発行を行った会員。

VALUER: VALUの購入を行った会員。

先日の記事である「NILU始めました」で説明したNILUで言えば、VALU、VL、VAの部分が全てNILUに該当し、BTC (ビットコイン) はNTC (ノットコイン) に該当する。ただし、ビットコインはノットコインと違って通貨としての意味と価値を持つ。発行者とVALUERに関してはそのままの意味なので、これ以上説明する必要はないだろう。

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「VALUについて 1: VALUの用語」

「VALUについて 2: VALUの新規登録、審査、利用方法」

「VALUについて 3: VALUとは何か?イメージと実態の乖離」

「VALUについて 4: VALUの問題点」

「VALUについて 5: VALUにおける哲学的に発展して考えた際の問題点」

「VALUについて 6: VALUとイノベーター理論」

「VALUについて 7: VALUにおけるアーリーアダプター、インフルエンサーの問題点」

「VALUについて 8: VALUにおける新しさの自転車操業とスピリチュアリズムの構造」

「VALUについて 9: VALUについての結論」