管轄法務局でLLP登記相談をした時に判明したことと、それを元にリサーチして分かったことをまとめてみる。
1. 必要な提出書面は以下。
・有限責任事業組合契約効力発生登記申請書 1通
・組合契約書 1通
・出資払込金受入証明書 1通
・預金通帳の表紙、表紙の裏面、出資金の入金記載のある部分のコピー 各1通
・印鑑届書 1通
・印鑑証明書 ○通
以下の書面は組合員が法人でない場合は必要がない。
・登記事項証明書 1通
・取締役会議事録 1通
・就任承諾書 1通
・委任状 1通
基本的に有限責任事業組合契約効力発生登記申請書に上記の書面を添付して提出する形になる。これらの書面には完全に決まったフォーマットはなく、自作する必要があるが、絶対的記載事項を含む場合もあるので作成にあたっては注意が必要。出資払込金受入証明書は誰かが代表して出資金の払込みを行っても良く、LLPの場合は最低2円以上必要になる。この書面に添付して提出する、預金通帳の表紙、表紙の裏面、出資金の入金記載のある部分のコピーは出資払込金受入証明書を押した印で契印する必要がある。印鑑届書は管轄法務局でもらうことが可能。これを作成するには代表者実印 = 会社実印と、届出人の市区町村に登録済みの実印が必要になる。この書面に添付して提出する印鑑証明書は実印を届け出た市区町村で取得可能で、各組合員の印鑑証明書が必要。
以前はこれらの書面における書式の実例を記したファイルを法務局で配布していたが、法律上の関係でクレームが付き、配布が中止されてしまったらしい。LLP関連書籍も新会社法が施行される辺りの年が出版のピークで、それ以降は余り出版されていない。なので書籍の場合は根本的な部分は合っていても、細かい部分の記述は法律改正もあって間違っている場合が多いらしい。書式の実例に関しては以下のウェブサイトのリンクが参考になる。
「組合契約書」
「有限責任事業組合 設立書式」
「契約書書式」
2. 登記の事前に法務局で商号調査と事業目的を調べ、被っているものがないかを調査する必要がある。「Anrealms」に関しては被っているものはなかったのでその点は大丈夫。
3. 印鑑は代表者実印を用意する必要がある。登記するにはこの代表者実印と、各組合員の実印があればOKだが、実際にLLPを運営するにあたっては代表者実印、銀行印、角印、ゴム印の四種類があると便利。印鑑は届け出る場所によっても大きさ、材質の規定があり、字体は色々選べるし、印鑑の種類によってもそれらの適切な選び方は異なる。自作するか、依頼して作ってもらうかはコストと手間を比較して決めるのが良さそう。
4. 組合契約書では全ページに組合員全員の実印での割印をする必要がある。組合員が物理的に離れた距離に住んでいる場合は、書面に関しては郵送でやりとりすることになる。また組合契約書を作成して、法務局に提出する際に訂正があった場合には実印か捨印が必要になってくる。その際に実印を提出者に預けることは難しいので、提出に同伴できない組合員の場合はリスクはあるものの捨印をすることで余計な手間が省ける。捨印は相手に訂正の承認を与える意味があるので、悪用すれば改ざんリスクがある。それを防ぐためにはコピーを取得することで訂正前の証拠を残すという方法が考えられる。
5. LLPを登記する場合には登録免許税6万円がかかる。また変更登記の申請にも登録免許税がかかる。何を変更するかによってもかかる金額は変わり、2千円〜6万円の幅がある。これらは変更事項数ではなく申請数に応じてかかる金額なので、変更事項をまとめて申請することによって費用を抑えることが可能。
6. 組合契約書に記載する組合の存続期間については、自動延長規定を規定していても延長される度に変更登記の申請が必要という謎の決まりがある。つまり自動延長といっても、延長の度に変更登記の申請が必要でそれには登録免許税がかかるので、自動延長規定を入れる必然性がほぼ存在しない。そもそもLLPは長期間の継続した活動を想定されていないので、存続期間を定めないといけないけれど、その上限も特に定められていない。存続期間は確定期限ということなので、以下の「時間の比較」のリンクから適当に長くて好きな事象を選んで選択するのも良いかもしれない。例えば「太陽と同程度の質量のブラックホールが蒸発するまでにかかる時間」を参考に、効力発行日から10^66年間とか。その場合はその期間までに以下のことが起こる可能性が高い。存続期間が非現実的なので法務局に修正を求められる、組合員全員が死ぬか、LLPが解散している、法律が改正されてLLPの制度自体がなくなる、組合の存続期間に関する規定が変わる、理論的にその数値が間違いだと証明される、Wikipediaの項目が修正される、人類が滅亡する。なので効力発行日から100年間と定めておけば延長について心配することはほぼなくなる。
「時間の比較」
7. 組合契約書で損益分配について定めない場合は、出資額の割合に沿って損益分配される。出資額とは異なる損益分配の方法を取る場合にはこれを別途定めなければならない。パススルー課税でも損益分配せずに内部留保した金銭についても個人の所得として課税される。つまりパススルー課税は法人税と所得税の二重課税がされないだけであって、内部留保した金銭について課税されないわけではない。
8. 商号・名称において「有限責任事業組合」という文字を名称の前後に付ける必要があるが、それらの間にスペースを入れてはいけない。つまり「Anrealms」の場合は「有限責任事業組合Anrealms」、もしくは「Anrealms有限責任事業組合」とする必要がある。LLPは登記の場合には使用することはできないけれど、書類や名刺などに使用する場合は問題ない。「Anrealms」の場合はメンバーとの話し合いの結果、LLPの場合の語順も考慮して「Anrealms有限責任事業組合」とすることに決定している。
9. 管轄法務局ではLLPの登記申請は年に2件程度しかないらしい。この知名度と活用頻度の低さが書籍とネットの情報不足、提出書面の分かりにくさに繋がっているのかもしれない。
10. 以下はその他の役立つLLP関連リンク
「有限責任事業組合 (LLP) 設立マニュアル」
「有限責任事業組合 (LLP) 制度の創設について」
「商業・法人登記の申請書様式」
「有限責任事業組合契約に関する登記手続」
「有限責任事業組合 (LLP) 設立チェックリスト」
「 有限責任事業組合契約に関する法律」